年間800万トンの海洋プラスチックゴミ
香港の環境保護団体『OceansAsia』によると、2020年に推定15億枚以上の使い捨てマスクが世界中の海に廃棄されたという発表がありました。
新型コロナウイルス感染防止でほとんどの人が外出時にマスクをするようになった昨今、街を見渡すと使い捨てマスクがポイ捨てされているのが目に留まります。
使い捨てマスクは、プラスチックの一種であるポリプロピレンやポリエチレンから作られています。
街の捨てられたマスクやレジ袋、食品トレー、ストロー、ペットボトルなどが雨で側溝に流され、河川に辿りつきます。
これらのプラスチックゴミは色々な衝撃や動物からの影響、紫外線などを受け、小さくなりながら海に辿り着きます。
5mm以下になったプラスチックゴミを「マイクロプラスチック」と呼びます。
だんだん小さくなったマイクロプラスチックのほか、特に問題なのが洗顔料やボディソープ、歯磨き粉、化粧品、スクラブ、洗剤などに使われているマイクロビーズや洗濯で出る化学繊維など、最初から目では見えないマイクロプラスチックです。
マイクロプラスチックは、半永久的に海に残り続けます。
プランクトンや魚介類を通じて人体に吸収され、健康被害がでていることから、世界中でマイクロビーズやマイクロファイバーの禁止やプラスチックゴミ100%回収を目標に取り組んでいます。
マイクロプラスチックの検出事例
2016年:東京農工大学の研究チームが東京湾で採取したカタクチイワシの8割からマイクロプラスチックを検出2017年:京都大学の研究チームが本州各地で採取した魚の4割からマイクロプラスチックを検出
2018年:グリーンピースと韓国の仁川大学校の教授の共同調査で世界39の塩ブランドを分析した結果、9割からマイクロプラスチックを検出
2018年:オーストラリアの学会が日本人を含む被験者8人全員の糞便からマイクロプラスチックを検出
2018年:グリーンピースの南極遠征チームが水と雪のサンプルを採取からマイクロプラスチックと有害化学物質の汚染を確認
2018年:ニューヨーク州立大学の研究チームがペットボトル入りミネラルウォーターの9割からマイクロプラスチックを検出
2018年:アメリカの大学など研究グループが世界13カ国の水道水、欧米やアジアの食塩、米国産ビールからマイクロプラスチックを検出
2019年:福岡工業大学が、同大学の屋上で採取した空気や降水中の成分からマイクロプラスチック片を検出
2020年:グリーンピースとエクセター大学が海洋食物連鎖の上位に位置するサメの3分の2がマイクロプラスチックを含んでいることを発表
2020年:妊婦6名の胎盤を調べた結果、4名からマイクロプラスチックを検出
2022年:イタリアの研究者チームがローマの病院で出産をした34人の母親のうち26人の母親の母乳からマイクロプラスチックを検出
2022年:オランダのアムステルダム自由大学の研究チームが健康な成人22人の血液のうち17人からマイクロプラスチックを検出
2023年:中国の首都医科大学の研究チームが15人の心臓手術患者から採取した心臓の筋肉や心膜など5つの組織を調査したところ、直径最大469μm(0.469mm)の9種類のマイクロプラスチックを検出
マイクロプラスチックは、発癌性、子宮内膜症、免疫機能低下、生殖機能障害、神経障害、知能の発達や発育異常、奇形など、健康への影響があります。
体内の生殖や発達の恒常性を乱す「内分泌かく乱作用」のある物質を、環境省では、「環境ホルモン」として70種類以上リストアップしましたが、その殆どが農業に使われる除草剤・殺虫剤や、被覆肥料などプラスチックでした。
農林水産省は、流出防止対策を検討するため、被膜殻のほ場(水田)からの流出実態を調査し、使用済みプラスチックの適正処理、排出量の抑制、海洋への流出防止の取り組みを始めました。
今や深刻な国際問題へと発展しており、世界中で使い捨てプラスチックやマイクロビーズ、マイクロファイバーなどを廃止が加速しています。
そして不可能とされるプラスチックゴミ100%回収を目標に、世界中で色々な取り組みが始まっています。
日本のマイクロプラスチック海洋汚染は世界平均の27倍以上
2018年、G7シャルルボワ・サミットで、プラスチックリサイクルの数値目標などを定めた「海洋プラスチック憲章」が発表され、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダは署名。
しかし、人口1人あたりのプラスチック包装ごみ発生量1位のアメリカと2位の日本は、「法律が整備されていない」などの理由で署名を拒否し、非難を浴びました。
レジ袋の有料化や紙ストローの使用など、諸外国に遅れて日本でも少しずつ対策は始まりましたが、まだまだ世界と比べて日本の環境問題への取り組みは出遅れています。
国連加盟193カ国が2030年までに達成すべき17の目標を定めた「SDGs」の12番目と14番目にも、プラスチックゴミを含む廃棄物のリサイクル・環境汚染防止が定められました。
九州大の磯辺篤彦教授の調査によると、日本の海は世界平均の27倍以上もの濃度のマイクロプラスチックに汚染されています。
海に流れ着くプラスチックゴミの1位は食品包材です
環境保護団体オーシャン・コンサーバンシーによる2019年の報告書によると、116カ国の海岸から9400トンを超えるゴミが1日で回収され、その数は3250万点にのぼりました。
その際に回収されたゴミの内容は、以下の通りです。
1.食品包材 4,771,602個
2.タバコ 4,211,962本
3.ペットボトル 1,885,833本
4.ペットボトルキャップ 1,500,523個
5.ストロー・使い捨てマドラー 942,992本
6.プラスチックカップ・プレート 754,969個
7.スーパーなどのプラ袋 740,290枚
8.持ち帰り用パック・箱 678,312個
9.そのほかプラ袋 611,100枚
10.プラスチックのフタ 605,778個
街でポイ捨てされたプラスチックゴミが、側溝に流され、海まで辿り着いています。
マイクロプラスチックのもとになる5大プラスチック
プラスチックには100種類以上がありますが、その中でマイクロプラスチックのもとになるのは「汎用樹脂」と呼ばれる原料で、下表に示す通り、主に5種類が挙げられます。
なお、マイクロプラスチックは、発生の経緯により一次マイクロプラスチックと二次マイクロプラスチックの2種類に分類されます。
一次マイクロプラスチック
スクラブやマイクロビーズなど、最初からマイクロサイズで製造されたプラスチックが排水などを通じて自然環境中に流出したプラスチックゴミを指します。
一度流出されると自然環境中での回収が出来ないため、製品化後の対策は困難です。
二次マイクロプラスチック
ペットボトルやビニール袋など、大きなサイズで製造されたプラスチックが自然環境中で紫外線や衝突などの影響を受け、破砕され細分化されてマイクロサイズになったプラスチックゴミを指します。
こうした二次マイクロプラスチックであれば、廃棄管理やリサイクルなどを行うことで発生が抑えられ、マイクロ化する前なら回収も可能なため、ある程度減らすことができます。
私達は、近代科学技術がもたらした利便性の裏で、地球環境に深刻な影響を及ぼしていることを見直すことから始めて、
1人1人の意識と行動を変革させ、マイクロプラスチックの排出量を減らしていく努力が強く求められています。
2050年の海は、魚よりもプラスチックの方が多くなる?
2019年11月下旬、イギリスの海岸で見付かったクジラの遺体。
その胃の中から、100kgものプラスチックゴミの塊が出てきたことは人々に悲しい衝撃を与えました。
その衝撃からプラスチックゴミの海洋汚染問題に警鐘を鳴らすためにつくられたプラスチックゴミの造形物が上写真です。
2015年には、鼻に10cmものストローが刺さったウミガメが救助されました。
世界の海で死んだウミガメ102頭を調べたところ、すべてのウミガメの内臓からプラスチックゴミが見付かったという調査結果や、ウミドリの90%がプラスチックを食べてしまっているという調査結果もあります。
もちろん魚からもプラスチックは見付かっており、それら海産物を食べる人間への影響が長らく懸念されてきました。
そしてとうとう、2018年10月、オーストラリアの学会で、日本人を含む被験者8人全員の糞便からマイクロプラスチックが検出されたことが発表されました。
さらに2020年12月2日には、人間の妊婦6名の胎盤を調べた結果、4名からマイクロプラスチックが検出されたという結果が発表されました。
人間や胎児への直接の影響は不明ですが、研究者らは「健康に対して重大な懸念がある」と警鐘を鳴らしています。
2050年の海には、魚よりプラスチックゴミの方が多くなるとも言われており、海洋汚染の問題は深刻化しています。
私達にできること...
日々の生活の中で、海洋プラスチック問題について私たちが実践できることはたくさんあります。
・エコバッグを持ち歩く。
・マイ箸、マイストローを持ち歩く。
・タンブラーを持ち歩き、コーヒーショップでは自分のタンブラーに入れてもらう。
・過剰包装を断る。
・布マスク、布ナプキン、布オムツを使う。
・傘カバーを持ち歩く。(デパートの入り口に置いてあるビニールの傘袋を使わない。)
・マイクロビーズ入りの洗剤、歯磨き粉などを使わない。
・消しゴムのカスは必ずゴミ箱に捨てる。(消しゴムはプラスチックです。)
・なるべく綿、麻、竹などナチュラル素材の洋服を着る。
・街でポイ捨てされているプラスチックゴミを、ゴミ箱に捨てる。
国や企業の取り組みだけではなく、私たち一人一人の日々の小さな取り組みが、地球環境を改善していきます。
そして、HIRYUでも、企業として小さな取り組みを始めています。
化学肥料を使っていない作物を食べよう!
プラスチックでコーティングされている農業用の被覆肥料(ひふくひりょう)は、肥料が溶け出した後に残るプラスチックが農業排水として河川に流れ込み、海に辿り着くことが報告されています。
また、微細になったマイクロプラスチックをミミズなどが捕食し、そのミミズの排泄物や死体を通して作物がマイクロプラスチックを吸収し、それを食べた人間の体に蓄積される可能性も否定できないと報告されています。
HIRYUでは化学肥料を使用していない食品を取り扱っています。
キッチンに新素材プラスチック「エンバランス」を使おう!
食品や飲料の保存に使うプラスチック製品は、リサイクル可能なポリエチレンやポリプロピレンに、微生物の有用成分を高温高圧の環境下で化学反応させた「エンバランス製品」を使用しています。
普通のプラスチックは紫外線に弱く、屋外では短期間で劣化し、最終的には微細に砕けマイクロプラスチックになるのに対して、エンバランス製品は紫外線による劣化がなく、粉砕されることがありません。
更には食品の鮮度劣化や腐敗も抑える機能があり、リサイクルするほど他のプラスチックにエンバランスの機能が備わっていくため、今後のリサイクル事業に期待される素材です。
例えば、エンバランス加工された食品用ラップを「容器包装プラスチック類」としてリサイクルが可能なゴミとして出すほど、エンバランスの機能が他のプラスチックに混ざりながらリサイクルされます。
※ゴミの出し方は地域によって異なりますのでよくご確認下さい。
保存容器、保存袋、ラップ、ピッチャーなどキッチン用品や、衣料や寝具など、多くのエンバランス製品が普及を始めているので、是非ご利用下さい。
オーガニックコットンのマスク・ナプキン・オムツを使おう!
2020年から、新型コロナウイルスの感染防止のために、外出時のマスク着用が当たり前となり、プラスチック製の使い捨てマスクのポイ捨てが、大量に海に流れ着き問題となっています。
化学繊維のマスクも同様です。
マスク以外の身近な使い捨てプラスチックでは、生理用ナプキンやオムツもあります。
欧州委員会の海洋プラスチック汚染調査で第5位の生理用品は、使用後にトイレに流してしまっていることが原因で、海に辿り着いています。
生理時に毎月約20枚のナプキンを平均40年間続けると、生涯で9,600個ものナプキンを使い捨てることになります。
使用後にトイレに流してはいけません。
また、ナプキンやオムツは可燃ゴミとして処理されており、焼却時にダイオキシンを発生する製品が多いことが懸念されています。
これらナプキンやオムツは環境への影響の他にも経皮毒*の問題もあります。
使い捨てのプラスチック製品からオーガニックコットンのナプキンやオムツに挑戦してみましょう。
*経皮毒とは:皮膚を通して物質が体内に吸収される有毒性のある化学物質などのこと
化学繊維よりも自然素材の衣類や寝具を使おう!
ナイロンやポリエステルを原料とした、8マイクロメートル以下の化学繊維のことをマイクロファイバーと言い、マイクロプラスチックに分類されます。
軽くて温かい特徴を持つマイクロファイバーは、ヒートテックの肌着やフリース、タオルや寝具に使われていますが、これらを洗濯するたびにマイクロファイバーは抜け落ちて、下水から河川を通り海まで流れ着きます。
2015年の英エレン・マッカーサー財団の報告によると、毎年50万トンのマイクロファイバーが河川に流出していると推定されています。
海を漂うマイクロファイバーは分解されず、海洋生物に取り込まれ、海産物を食する人間の体内にも吸収されます。
生物が食べてしまっても消化することができ、環境で素早く分解される自然素材の衣類や寝具を使ってみましょう。
マイクロビーズを使っていないケア用品を使おう!
歯磨き粉やボディソープなどには、肌の汚れや角質を除去するためのスクラブ剤にマイクロビーズが使われています。
柔軟剤や洗剤の香り成分を長続きさせるためにもマイクロビーズが使われています。
これらマイクロビーズは、最初から微細なマイクロプラスチックです。
水道やシャワーで洗い流されると排水処理施設では除去できず、そのまま海へと辿り着き、ゴミ拾いなどでも回収することができないため、製造メーカーへの非難が多くなり、マイクロビーズの取扱を止めるメーカーが続出しています。
歯磨き粉、洗剤、ボディソープなど、マイクロビーズを不使用の製品を使いましょう!