必須脂肪酸(旧ビタミンF)
必須脂肪酸の種類
リノール酸とα-リノレン酸はヒトや動物体内では合成されず、狭義にはこの2つの脂肪酸が必須脂肪酸とされています。
しかし、リノール酸からのアラキドン酸合成、α-リノレン酸からのエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)の合成は十分ではなく、広義にはこれらも必須脂肪酸に含まれます。
厚生労働省より発表されている「日本人の食事摂取基準」では、リノール酸やアラキドン酸は「n-6系脂肪酸(ω-6脂肪酸)」として、
α-リノレン酸、EPA、DHAは「n-3系脂肪酸(ω-3脂肪酸)」として年齢および性別による摂取基準値が設けられています。
現在では、「n-6系脂肪酸(ω-6脂肪酸)」をオメガシックス、「n-3系脂肪酸(ω-3脂肪酸)」をオメガスリーと省略してよばれていることも多いので、
そちらの呼び名の方がなじみ深いかもしれません。
*ω-6脂肪酸…リノール酸、アラキドン酸
*ω-3脂肪酸…α-リノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)
必須脂肪酸の生理機能
ω-6脂肪酸は成長や生殖に必要であり、ω-3脂肪酸は網膜や神経系に多く含まれ、視覚や学習に重要であることが明らかにされています。
必須脂肪酸はリン脂質に多く含まれ、生体膜の構成成分として細胞膜の流動性に関与しています。
また、必要に応じてプロスタグランジンなどのエイコサノイドと呼ばれる生理活性物質を合成する材料となり、血圧上昇、平滑筋収縮、血小板凝集促進など、多岐多様な生理作用に関わります。
必須脂肪酸欠乏症
成人体内の脂肪貯蔵量は多く、必須脂肪酸の必要量は少ないため、必須脂肪酸欠乏症はほぼ現れませんが、幼児では脂肪の貯蔵量が少ないために欠乏症が現れやすいので注意が必要です。
必須脂肪酸が不足すると、成長が遅れ、毛髪の発育は悪く、体幹より皮膚がふすま様に剥離し、感染しやすくなるなるなどの症状が見られます。
不足状態が続き、症状がさらに進行した場合、口唇から鼻、眉毛にかけて皮膚に鱗状の湿疹が発生し、顔から首にかけて広がる事例が報告されています。
ω-6脂肪酸含有量の多い食品は以下の通り
くるみ(煎り)(100g):41000mg
ごま油(100g):41000mg
ごま(煎り)(100g):23000mg
なたね油(100g):19000mg
落花生(乾、小粒種)(100g):16000mg
きな粉(100g):11000mg
ω-3脂肪酸含有量の多い食品は以下の通り
くるみ(煎り)(100g):9000mg
なたね油(100g):7500mg
大豆(全粒、国産、乾)(100g):1800mg
きな粉(100g):1800mg
煎茶(100g):1400mg
納豆(100g):740mg
必須脂肪酸の発見
20世紀前半の半ばまで、食物中の脂肪は必須栄養素とまではみなされていませんでした。
1920年代の末から1930年代のはじめにかけて、ミネソタ大学の植物生理学者ジョージ・オズワルド・バーらは、無脂肪食で飼育されたネズミでは発育不全、
皮膚の角化や脱毛などの皮膚炎、腎臓・生殖器系障害などがおこり、これに少量の脂肪を添加することにより、このような障害を予防または治療ができることを発見しました。
その後、この有効成分は、リノール酸およびα-リノレン酸であることが明らかにされました。
これらの物質は、ヒトや動物体内では合成されず、食物から摂取しなければならないため、ビタミンFと仮定されたこともありましたが、現在では「必須脂肪酸」と呼ばれています。