ビタミンB1(チアミン)
世界で初めてビタミンが発見されるまで
江戸時代になると上流階級から白米やうどんの食習慣に変わり、3代将軍 徳川家光(1604~1651)、桜町天皇(1720~1750)、13代将軍 徳川家定(1824~1858)、
14代将軍 徳川家茂(1846~1866)、家茂の正室である和宮(1846~1877)、小松帯刀(1835~1870)等など脚気が原因で亡くなり、これを「江戸患い」と呼びました。
明治時代になると、玄米より早く炊けて、薪も少なく済み、味もいいことから副食も減り、経済的で美味しい白米の習慣と共に脚気も庶民に広がる一方で、症状を改善できる玄蕎麦や小豆、麦飯が良いとされました。
1870年(明治3年)明治天皇も発症した脚気は結核と並び二大国民病となり流行します。
1878年(明治11年)漢方と西洋医学を取り入れた脚気の病院が設立されます。
国際情勢も軍国主義の時代に突入し、多くの兵士が限られた食事が原因で脚気を患うようになりますが、この時はまだ栄養失調が原因である事が分からず、伝染病とされていました。
1882年(明治15年)当時日本最大の戦艦龍驤(りゅうじょう)271日(1882.12.19-1883.9.16)の遠洋練習航海では、船員376人中、169人が脚気を発症、
そのうち25人が死亡する事態に海軍軍医(医学博士:東京慈恵医大初代院長)で後に「ビタミンの父」と言われた高木兼寛(1849-1920)が1883年10月脚気病調査委員会を設置。
脚気の原因を栄養説とする高木は天皇に海軍の食事を変更する了解を得て、1884年(明治17年)2月2日全海軍の食事を高木が定めた献立(食量表)に変更するよう要請し、9日より実施する事が通達されました。
その時の食事内容は、米・牛・豚・鳥・魚・野菜・豆類・小麦粉・牛乳などでした。
2月3日、国家予算5万円/300万円もの予算をかけて、龍驤と同じ航路を戦艦筑波で試験航海が行われ、287日(1884.2.3-11.16)の航海で、
船員333人中、15人が脚気を発症、死亡なしという成果をあげ、日清戦争(1894-1895)において海軍は脚気を発症させませんでした。
一方、陸軍軍医森鴎外などは細菌説として食事を改善しなかったため戦闘による死傷者1270人に対して、脚気による死者数が4064人にのぼり、
更に日露戦争(1904-1905)でも、兵数999,868人、戦死46.423人 (4.6%)、戦傷153,623人 (15.4%)、戦地入院251,185人 (25.1%)に対して、脚気の入院患者110,751人 (44.1%) 、
入院以外の脚気患者140,931人、合計251,682人の脚気患者にのぼり、そのうち入院脚気患者の死亡数が27,468人、実に4人に1人が脚気を発症し、36人1人が死亡しました。
陸軍が栄養説を認め食事改善を行ったのはこれより30年も経ち、既にビタミンの存在が認めらる時代になってからでした。
1910年(明治43年)6月14日、東京化学会で農芸化学者の鈴木梅太郎(1917年に創立した理化学研究所の設立者の一人1874.4.7-1943年9月20日))が
「白米の食品としての価値並に動物の脚気様疾病に関する研究」より以下を報告。
●ニワトリとハトを白米で飼育すると脚気で死ぬ
●糠と麦と玄米には脚気を予防する成分がある
●白米は色々な成分が欠乏している
1911年(明治44年)1月の東京化学会誌に論文「糠中の一有効成分に就て」が掲載され、糠にある有効成分は、抗脚気因子にとどまらず、ヒトと動物の生存に必要不可欠な栄養素である事を説明し、
後にこの有効成分を「オリザニン」と命名します。
これが世界初のビタミン(ビタミンB1:チアミン)でした。
1919年(大正8年)オリザニンを使った脚気治療が始まりますが、当初は治療費が高く、容易に治療を受ける事が出来ませんでしたが、
医学の進歩と食事による予防などもあり国民の脚気死亡者は1923年(大正12年)人口5,811.9万人に対して26,796人をピークに1950年(昭和25年)3,968人、1955年(昭和30年)1,126人、1960年(昭和35年)350人、1965年(昭和40年)92人と年々減少しました。
しかし1975年(昭和50年)頃からジャンクフードの普及により、脚気が再発し、1997年(平成)には、死亡を含む重症例が相次ぎ、
厚生省は高カロリー輸液療法施行中の患者には必ずビタミンB1を投与するなど注意の徹底を図るようになりました。
概要
ビタミンB1はチアミンの他にサイアミン、アノイリンとも呼ばれ、水溶性で熱に弱く、アルカリ条件下では分解が進み、ニンニクに含まれるアリシンと結合するとアリチアミンとなり吸収効率が向上し、抗脚気、抗神経炎の働きがあります。
植物の種子、胚、酵母や肝臓に多く含まれる栄養素で、日本人においては、摂取総量の半分を穀物から摂取しているといわれます。
ビタミンB1(チアミン)が不足した場合
ビタミンB1はブドウ糖をエネルギーに変える補酵素として働き、不足するとアセチルCoAに変化が出来ず、ピルビン酸が蓄積し、 嫌気性分解(酸素を必要としないエネルギー代謝)を経て、疲労物質である乳酸へと変化し、蓄積され、エネルギーが上手に生産できなくなるので、 疲労、むくみ、食欲不振、脚気、肝臓、腎臓の機能低下、糖尿病などの疾病を引き起こします。
ビタミンB1の過剰症について
水溶性ビタミンなので過剰に摂取した場合は、汗や尿などと一緒に排出されます。
また過剰症の報告も特にはありません。
糖分のとりすぎに注意
ビタミンB1は糖分のエネルギー代謝に働くので、必要以上の糖分はビタミンB1を必要以上に消費してしまいます。
ビタミンB1は不足しがちで、肥満の原因にもなりますので注意しましょう。
ビタミンは合わせて摂ると効果的!
複数のビタミンが関与しあってカラダの機能しているので、サラダなど複数のビタミンを合わせて摂取すると効果が期待できます。
特にビタミンB群(ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン(B3)、パントテン酸(B5)、ビタミンB6、ビタミンB12、アミグダリン(B17)など)は多くの働きで相互に協力しあいます。
ビタミンB1は水溶性
植物や動物の体内では水に溶けた状態で存在してます。
水に溶けやすいので、切った野菜は手際よく洗うようにしましょう。
また長く水につけても流失するので注意しましょう。
精白米も水で研ぐと流失してしまうので玄米がおすすめです。
またビタミンB1は弱酸性です。
水道水(塩素酸)のpH基準は5.8~8.6に定められていますが、弱アルカリ性に設定されていることが多いので減少してしまいます。
ビタミンB1は熱に弱い
サラダなど生のまま食べることで無駄なくビタミンB1を摂取することができますが、加熱すると30~50%ほど消失してしまいます。
それでも茹で汁や煮汁には栄養が残りますので捨てずに味噌汁やスープにしてお使い下さい。
アリチアミン
ニンニク、長ネギ、玉ネギ、ニラ、ラッキョウなどに多く含まれる硫化アリル「アリシン」が「チアミン」と結合すると、「アリチアミン」となり、吸収効率が向上し、疲労回復の効果があり、ビタミンB1分解酵素「アノイリナーゼ」の作用も受けづらくなります。
1954年、脚気の治療薬を陸軍から依頼された武田製薬がアリチアミンを主成分に商標「アリナミン」を開発し、錠剤と栄養ドリンク剤の多数の商品を国内外で現在に至るまで販売しています。
アイノリナーゼがビタミンB1を分解
貝類、ワラビ、ゼンマイ、ツクシなどのシダ類、甲殻類や魚の内臓などには、ビタミンB1分解酵素「アイノリナーゼ」含まれているので、一緒に調理するとビタミンB1が分解されてしまいます。
但し「アリチアミン」ならその作用も少なくて済みます。
ビタミンB1が多く含まれている食品
酵母、豚肉、胚芽、豆類に多く含まれ、特に肉や魚卵に多く、一番含有率が高いのが豚のヒレ肉100g中に0.98mg。
大豆0.83mg、ウナギの蒲焼0.75mg、野菜ではグリーンピースが一番多く0.3mg、玄米御飯が0.16mg、小豆が0.45mg、煎り胡麻0.49mgです。